ドラッグストアで買った市販薬が、税金の還付につながる制度があるのをご存じでしょうか。
その名も「セルフメディケーション税制」。花粉症の薬、痛み止め、湿布など、ふだん薬局で買っている薬の合計が年間12,000円を超えた場合に、超えた分を所得から控除できるというものです。
「確定申告って難しそう」「自分には関係なさそう」と思っている方も多いかもしれません。でも実は、この制度はサラリーマンでも主婦でも使えます。しかも、思っていたより手続きはシンプルです。
この制度はもともと2026年12月末で終了する予定でしたが、直近の税制改正により、薬の区分に応じて「適用期限の撤廃(当面の期限なし)」と「2031年末までの5年延長」に分かれる形で継続が決定しました。また、処方薬の保険適用見直しが話題になっている今、薬代の節税手段として知っておいて損はない制度です。この記事では、制度のしくみから手続きの流れ、医療費控除との比較まで、できるだけわかりやすく解説します。
■目次
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セルフメディケーション税制とは?仕組みをざっくり理解する
セルフメディケーション(self-medication)とは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽い体の不調は自分で手当てすること」をいいます。世界保健機関(WHO)が定義している考え方です。
このセルフメディケーションを国として後押しするためにスタートしたのが「セルフメディケーション税制」です。正式には「医療費控除の特例」とも呼ばれています。
しくみはシンプルです。対象の市販薬(OTC医薬品)を年間12,000円以上購入した場合、12,000円を超えた金額を所得から差し引くことができます。その分、税金が少し戻ってきます。
セルフメディケーション税制の基本ルール
- 対象:1年間(1月〜12月)に購入した特定のOTC医薬品
- 控除のしきい値:年間12,000円を超えた分
- 上限:最大88,000円まで控除可能
- 適用期間:スイッチOTCは適用期限を撤廃、非スイッチOTCは2031年末まで
ひとつ大事なポイントがあります。「12,000円がまるまる戻ってくる」のではなく、「12,000円を超えた金額が所得から引かれる(控除される)」という意味です。実際に戻ってくるのは、その控除額に税率をかけた金額になります。
たとえば、1年間に対象薬品を20,000円分購入した場合、12,000円を差し引いた8,000円が控除の対象になります。所得税率が20%の人なら、所得税が1,600円、住民税が800円、合計2,400円程度戻ってくる計算になります。
申請できる人の条件
セルフメディケーション税制を使うためには、以下の2つの条件を同時に満たす必要があります。
条件① 対象のOTC医薬品を年間12,000円以上購入している
本人だけでなく、生計を一にしている家族(配偶者・子ども・親など)の分もまとめて合算できます。離れて暮らしている家族でも、生活費を共有している(単身赴任や、仕送りをしている下宿中の学生など)場合は合算の対象になります。
条件② その年に「健康のための一定の取組」を行っている
ただ薬を買っているだけでは申請できません。その年に、以下のいずれかを実施していることが条件です。
【「一定の取組」として認められるもの】
- 会社の定期健康診断(年1回の健診で問題なし)
- 市区町村が実施する特定健康診査(メタボ健診)
- 人間ドック
- がん検診(市区町村の無料検診でも可)
- インフルエンザの予防接種
- 勤務先やかかりつけ医で受けた生活習慣病の管理指導
「会社の健康診断を受けている」という方は、ほぼ条件をクリアしていると思っていただいて大丈夫です。健康診断の結果通知書などは、後述する通り提出は不要ですが保管義務がありますので、捨てずに取っておいてください。

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どんな薬が対象になるのか
すべての市販薬が対象になるわけではありません。対象になるのは、厚生労働省が指定した特定の成分・薬効を含む医薬品です。
大きく2種類に分けられます。
ひとつは「スイッチOTC医薬品」です。これはもともと医師の処方が必要だった薬が、安全性が認められてドラッグストアでも買えるようになったものです。花粉症の薬(アレグラ・クラリチン・タリオン)、水虫の薬、胃潰瘍の薬などが代表例です。
もうひとつは「非スイッチOTC医薬品」です。スイッチOTCではないものの、医療費の削減効果が高いと認められた一般薬で、解熱鎮痛薬・アレルギー薬・外用消炎鎮痛薬・鎮咳去痰薬・かぜ薬・鼻炎用薬などが含まれます。
| カテゴリー | 対象になりやすい薬の例 |
|---|---|
| 花粉症・アレルギー | アレグラ、クラリチン、タリオン、アレジオン(市販品) |
| 解熱・鎮痛・湿布 | ロキソニンS、イブプロフェン製剤、フェルビナクテープ |
| かぜ薬 | PL配合顆粒系の市販薬、総合感冒薬 |
| 胃腸薬・便秘薬 | ガスター10(ファモチジン製剤)など |
| 水虫・皮膚疾患 | ラミシールクリーム(市販品)など |
| 目薬(アレルギー性) | 特定のアレルギー用点眼薬 |
対象品目の数は非常に多く、2025年末時点でスイッチOTCが約3,020品目、非スイッチOTCが約4,320品目と、身近な薬の多くがカバーされています。※対象品目は毎月更新されて増減するため、品目数はあくまで目安です。自分が買っている薬が対象かどうかは、商品のパッケージや購入時のレシートで確認するのが一番確実です。
対象薬の見分け方は2つ
- パッケージに「セルフメディケーション税制対象」のロゴマークが入っている
- 購入時のレシートに★や「セ」などの記号が印字されている(店によって表記が異なる)

なお、2026年1月1日からは「ユビデカレノン、メコバラミン、L-アスパラギン酸カルシウム、フッ化ナトリウム」の4成分が含まれる一部の薬が対象外になりました。これらはビタミン剤や歯科関連の製品などに含まれることが多い成分です。「成分を見て自分で判断する」のは難しいため、必ず購入前にパッケージの対象マークを確認するか、購入時のレシートの印を見る習慣をつけると確実です。
医療費控除とどちらが得か?比べ方を整理する
ここが一番迷うところだと思います。セルフメディケーション税制と通常の医療費控除は、どちらか一方しか使えません。同じ年に両方を使うことはできないので、自分にとって有利な方を選ぶ必要があります。

| 比較項目 | 医療費控除(通常) | セルフメディケーション税制 |
|---|---|---|
| 適用条件 | 年間10万円以上の医療費 | 年間12,000円以上の対象OTC薬購入+健診等 |
| 控除の下限 | 10万円(所得200万円未満は所得の5%) | 12,000円 |
| 控除の上限 | 200万円 | 88,000円 |
| 対象となる支出 | 病院代・薬代・交通費など幅広く | 特定のOTC医薬品のみ |
| 健診等の条件 | 不要 | 必要 |
シンプルに言えば、医療費が年間10万円を超えている年は通常の医療費控除が有利になる場合が多く、病院にあまり行かないけれど市販薬をよく買う方にはセルフメディケーション税制が向いています。
こんな人はセルフメディケーション税制が向いている
- 病院にはあまり行かないが、ドラッグストアで薬をよく買う
- 花粉症・アレルギーで毎年春に薬を大量に購入している
- 慢性的な痛みや持病の市販薬(湿布・痛み止めなど)を定期購入している
- 年間の医療費が10万円に届かない
判断に迷うときは、1年分の医療費合計と、OTC薬の購入合計を両方計算してみてください。どちらの制度で控除できる金額が大きいかを比べれば、答えが出ます。
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確定申告の手順
「確定申告は難しそう」というイメージがあるかもしれませんが、セルフメディケーション税制の申告はかなり簡略化されています。現在は、申告の際にレシートや健康診断の証明書を税務署に提出する必要はありません。
ただし、「セルフメディケーション税制の明細書」の作成と提出は必須ですので、勘違いして申告し忘れないよう注意してください。

ステップ1:1年分のレシートを集める
1月1日から12月31日までに購入した対象OTC医薬品のレシートをまとめます。家族の分も合算できるので、家族のレシートも一緒に保管しておきましょう。レシートには対象品目かどうかの記号が印字されていることが多いので、確認しながら集めてください。
ステップ2:購入金額の合計を出す
対象品目の購入金額だけを合計します。食品や日用品と一緒に買っている場合でも、レシートに印字された対象薬品の金額のみを足してください。合計が12,000円を超えていれば申告できます。
ステップ3:「セルフメディケーション税制の明細書」を作成する
国税庁のウェブサイト(e-Tax)または確定申告書の書式を使って、「セルフメディケーション税制の明細書」を作成します。購入した薬品名、金額、購入店などを記入・入力します。
ステップ4:確定申告を行う(明細書は提出、レシートは保管)
確定申告の時期(原則として翌年2月16日〜3月15日)に、税務署への提出または e-Taxでのオンライン申告を行います。このとき提出するのは「確定申告書」と「明細書」のみです。サラリーマンで年末調整が終わっている方も、この制度を使う場合は別途確定申告が必要です。
【申告後に自宅で5年間保管すべきもの】
- 対象OTC医薬品のレシート
- 健康診断や人間ドックの結果通知書、予防接種の領収書など
※これらの書類は税務署に提出しませんが、後日税務署から提示を求められる場合があるため、必ず5年間は自宅で保管してください。
2026年以降の制度はどうなるのか
現行のセルフメディケーション税制は、もともと2026年12月31日が適用期限とされていました。しかし、少子高齢化が進むなかで「軽い症状は自分で薬を買って治す」という行動を推進したい国の方針があり、2025年末の税制改正大綱において制度の継続が決定しました。
大手メディアなどではざっくりと「5年延長」と解説されていることも多いですが、正確には以下の2つの扱いに分かれています。
- スイッチOTC医薬品: これまでの適用期限が撤廃され、当面の期限なしとなりました。
- それ以外の対象医薬品(非スイッチOTC): 適用期限が2031年(令和13年)12月31日まで5年間延長されました。
※税制は毎年の見直しで変わる可能性があるため、将来的に変更される余地はありますが、当面の間はこの節税制度が使えることは間違いありません。
また、今話題になっているOTC類似薬(市販薬と同じ成分の処方薬)の保険適用除外の議論が現実になった場合、処方薬が保険から外れてドラッグストアで市販薬を買う人が急増することになります。そうなれば、このセルフメディケーション税制の重要性はさらに高まることになります。
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まとめ
セルフメディケーション税制は、ドラッグストアで薬をよく買う人にとって、知っているだけで得をする制度です。年間12,000円という条件は、花粉症や軽い慢性症状がある方なら十分に超えることができます。
手続きも以前より簡単になり、レシートを集めておいて確定申告時に「明細書」を作るだけです。大量のレシートを税務署に提出する必要もないため、難しく考えなくて大丈夫です。まずは今年のレシートを捨てずにとっておくことから始めてみてください。
1回の申告で戻ってくる金額は数千円程度の場合が多いですが、塵も積もれば山となります。適用期限の撤廃や延長が決まった今、ぜひ積極的に活用して家計を守りましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. サラリーマンで年末調整が終わっていますが、セルフメディケーション税制は使えますか?
使えます。ただし、年末調整ではこの税制の申告はできません。別途、ご自身で確定申告を行う必要があります。翌年の2月16日〜3月15日に税務署かe-Taxで申告してください。
Q. 家族の薬代も合算できますか?
生計を一にしている家族の分は合算できます。同居している家族はもちろん、単身赴任中の配偶者や、仕送りをしている別居中の子どもなど、生活費を共にしている家族であれば対象になります。
Q. レシートをなくしてしまいました。申告できませんか?
レシートがないと購入の証明が難しくなります。明細書を作成する際にも金額や購入店の情報が必要ですし、後日税務署から提示を求められる場合があるため、レシート紛失時の申告は難しいケースが多いです。日頃からレシートを専用のファイル等に保管しておくことをおすすめします。
Q. 通常の医療費控除と同じ年に両方使えますか?
使えません。セルフメディケーション税制と通常の医療費控除は、どちらか一方しか選べません。1年間の医療費合計と市販薬の合計を計算し、ご自身にとって有利な方を選択してください。
Q. 市販薬ならどれでも対象になりますか?
すべてが対象になるわけではありません。厚生労働省が指定した特定の成分・薬効を含む医薬品のみが対象です。パッケージに記載された「セルフメディケーション税制対象」のロゴマークや、購入レシートの印(★マークなど)で確認してください。
Q. 健康診断を受けていない年は申告できませんか?
申告できません。「健康のための一定の取組」が適用条件のひとつのため、健診や予防接種などを何も受けていない年は対象外となります。会社員の方は年1回の定期健康診断を受けていれば条件を満たせます。
参考・出典
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」
- 厚生労働省「セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について」
- 国税庁「セルフメディケーション税制と通常の医療費控除との選択適用」
- 国税庁「一定の取組の証明方法について」