「引きこもり」と聞いて、あなたはどんな人を思い浮かべますか。
部屋から出てこない若者。ゲームばかりしている人。そんなイメージがあるかもしれません。
でも、現実はまるで違います。内閣府の調査によると、日本の引きこもりは推計146万人。約50人に1人が引きこもり状態にあるという計算になります。しかも、その半数以上は40歳を超えた中高年。かつて会社で働いていた人、大学まで出た人。決して「特別な人」の話ではありません。
そして以下の疑問点
なぜ日本にはこれほどの引きこもりがいるのか。なぜ男性に多いと思われてきたのか。海外にも引きこもりはいるのか。そしてこの問題は、本人だけでなく家族や社会全体にどんな影響を与えているのか。
この記事では、引きこもりの実態を統計データで示しながら、その根本的な原因と最新の支援制度まで、できるだけわかりやすく解説します。今まさに悩んでいる方にも、「うちには関係ない」と思っている方にも、ぜひ読んでほしい内容です。
■目次
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引きこもりとは?まずは定義を正しく知ろう
厚生労働省は、引きこもりを次のように定義しています。
引きこもりの定義(厚生労働省)
仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態
ここで注意したいのは、「完全に部屋から出ない人」だけが引きこもりではないということです。
内閣府の調査では、引きこもりを「狭義」と「広義」の2種類に分けています。
| 分類 | 状態 |
|---|---|
| 狭義の引きこもり | 自室や自宅からほとんど出ない、または近所のコンビニ程度しか外出しない |
| 準引きこもり | 趣味の用事のときだけ外出する |
| 広義の引きこもり | 上記を合わせたもの(6か月以上継続) |
つまり、コンビニには行ける人も、趣味のイベントには参加できる人も、社会的なつながりがなく6か月以上その状態が続いていれば「引きこもり」に該当します。部屋に完全に閉じこもっている人だけが対象ではないのです。
なお、病気による療養中の方や、在宅で仕事をしている方、妊娠中の方などは対象外です。
衝撃の数字。日本の引きこもりは推計146万人
内閣府が2022年に実施した「こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)」の結果は、大きな反響を呼びました。
引きこもり状態にある人の割合は、15〜39歳で2.05%、40〜64歳で2.02%。全国の人口に当てはめると、推計146万人(※15〜39歳と40〜64歳の調査推計値を合算した参考値)が引きこもり状態にあるという計算になります。
2018年の調査では推計115万人だったので、わずか4年で約30万人も増えたことになります。
コロナ禍が引きこもりを加速させた
この急増の大きな要因が、新型コロナウイルスの流行です。引きこもりの理由として「新型コロナウイルス感染症が流行したこと」を挙げた人は、約5人に1人にのぼりました。
外出自粛やテレワークの普及によって「家にいること」が当たり前になり、もともと社会に出ることに不安を感じていた人にとっては、家にこもる生活を続ける「きっかけ」になってしまいました。
引きこもりの主な理由
内閣府の調査で判明した、引きこもりになった理由のトップ5は以下の通りです。
| 順位 | 理由 |
|---|---|
| 1位 | 退職したこと |
| 2位 | 人間関係がうまくいかなかったこと |
| 3位 | 新型コロナウイルスの流行 |
| 3位(同率) | 中学校時代の不登校 |
| 5位 | 病気 |
最も多い理由は「退職」です。職場での居場所や目標を失い、心身にダメージを受けた結果、社会との接点がなくなってしまうケースが非常に多いのです。
※ただし、これは中高年層を含めた全体の傾向です。若年層(15〜39歳)に限定すると、「人間関係がうまくいかなかったこと」や「中学校時代の不登校」が上位にくるなど、年代によってきっかけは異なります。
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実は男女ほぼ半々。女性の引きこもりは「見えにくい」
「引きこもりは男性の方が多い」と聞いたことはありませんか? 実は最新データでは様相が変わっています。
かつての調査では「男性が7割以上」とされていましたが、内閣府の最新の調査(令和4年度)によると、引きこもりの男女比は15〜39歳で「男性54.1%:女性45.9%」、40〜64歳で「男性52.3%:女性47.7%」と、おおよそ男女半々であることが判明しました。
なぜ、これまで女性の引きこもりが少ないと誤解されていたのでしょうか。
女性の引きこもりは社会的に認識されにくい
その最大の理由は、女性が家にいても「家事手伝い」「専業主婦」として社会的に受け入れられやすく、引きこもりとして認識されにくいからです。
実際、40〜64歳の引きこもり状態にある女性の約半数が、自身の状態を「専業主婦・主夫、家事手伝い」と回答しています。本当は外の世界と接点を持ちたいのに、「女性だから家にいて当然」という暗黙の了解によって、SOSが埋もれてしまっていたのです。
男性にかかる社会的プレッシャーも依然として大きい
一方で、男性に対する「働いて一家を支えるべき」という価値観も根強く残っています。
仕事でつまずいたとき、「働いていない自分」を受け入れられず、人と会うことが怖くなり、外に出られなくなる。社会が個人にかけるプレッシャーの形は男女で異なりますが、どちらも深刻な孤立を生み出しています。
就職氷河期世代の影響
引きこもりが中高年に多い背景には、1990年代半ばから10年以上続いた就職氷河期の影響があります。新卒での採用が大幅に抑制された結果、社会に出るタイミングを逸してしまい、そのまま引きこもり状態が長期化したケースが少なくありません。
日本だけの問題?引きこもりの国際比較
「引きこもりって、日本だけの現象でしょ?」。そう思っている方は多いかもしれません。確かに「Hikikomori」は日本語がそのまま世界共通語になっており、2010年にはオックスフォード英語辞典にも収録されました。
しかし、引きこもりは日本だけの問題ではありません。実は世界各国で報告されています。
引きこもりが多い国には共通点がある
引きこもりが多い国の共通点
- 日本、韓国、イタリア、フランスなど
- 共通点は「家族主義」が強いこと
- 成人後も親と同居する文化がある
韓国政府の調査によると、韓国には「孤立・隠遁青年」が約54万人いると推計されており、大きな社会問題になっています。イタリアでも若者を中心に引きこもりが報告され、家族会「Hikikomori Italia」が設立されています。フランスでも数万人規模の引きこもりが存在するとされています。
アメリカやイギリスとの違い
一方、アメリカやイギリスのような個人主義的な国では、引きこもりはそれほど大きな問題になっていません。
これらの国では、成人すると親元を離れて自立するのが一般的です。社会に出られなかった場合、家にとどまるのではなく、ホームレスになってしまうリスクが高いのです。実際、アメリカでは「1年間でホームレス状態を経験する若者が100万人以上にのぼる」という推計もあります(※特定の一時点ではなく、年間を通じた経験者数の推計)。
つまり、同じ「社会に参加できない」という問題が、家族主義の国では「引きこもり」として、個人主義の国では「若年ホームレス」として表れている。文化によって見え方が変わるのです。
デンマークでは引きこもりが長期化しにくい
興味深いのはデンマークの例です。デンマークでは、日本のような長期にわたる引きこもりは発生しにくいとされています。
その理由は、福祉制度が充実しているから。どんな状況に陥っても社会的なサポートが受けられる仕組みが整っており、孤立する前に行政が気づいて早期に支援に入るのです。精神的な不調に対する偏見も少なく、カウンセリングを受けることがごく当たり前と認識されています。
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引きこもりが日本で多い本当の理由
ここまでの情報を整理すると、日本に引きこもりが多い理由が見えてきます。単に「甘えている」「怠けている」では片付けられない、複合的な要因が絡み合っているのです。
①「こうあるべき」の圧力が強すぎる
いい学校に行き、いい会社に入り、結婚して子どもを持つ。日本社会には、この「正解のレール」から外れることを許さない空気があります。レールを外れた人は「普通じゃない」とみなされ、本人も周囲も、その事実を隠そうとします。
社会が描く「理想の人生像」に合致しない自分を受け入れられず、自分を責め続けた結果、社会から撤退するしかなくなってしまうのです。
②失敗を許さない社会構造
内閣府の調査では、引きこもり状態にある若者の61.1%が「努力しても希望の職業にはつけない」と感じており、63.9%が「うまくいくかわからないことには取り組みにくい」と回答しています。
一方で、今の自分を変えたいと思っている人は75.7%にのぼり、就労意欲がある人も7割を超えています。決して「やる気がない」わけではありません。
問題は、日本社会が失敗した人に対して厳しすぎること。一度レールを外れると戻るのが極端に難しい社会構造が、引きこもりを生み出す温床になっています。
③親と同居する文化と経済環境
成人後も親と同居することが社会的に許容されていること自体は悪いことではありません。しかし、「引きこもれる環境」が維持されやすいという側面があるのも事実です。
親が年金や貯蓄で子どもの生活を支え続けられる限り、問題は表面化しません。しかし親が80代、子どもが50代になったとき、事態は深刻化します。これがいわゆる「8050問題」です。
8050問題。引きこもりの長期化がもたらす危機
引きこもりが社会問題として深刻なのは、長期化するケースが非常に多いからです。
内閣府の調査によると、中高年の引きこもりのうち7年以上続いている人は約5割。10年以上が約36%、30年以上という人さえ存在します。
8050問題とは
80代の親が50代の引きこもりの子どもの生活を支え続ける状態を指します。親の年金や貯蓄が尽きたとき、あるいは親が介護を必要としたとき、親子共倒れのリスクが生じます。
実際に、親が亡くなった後も届け出ができず、遺体とともに発見されるケースが報道されています。
経済的な損失も看過できない
中高年の引きこもりだけでも、就労機会の損失額は数兆円規模にのぼるとする試算があります。146万人全体で考えれば、その規模はさらに大きくなるでしょう。
労働力不足が深刻な日本において、これだけの人数が社会参加できていないことは、個人の問題にとどまらず、税収の減少や社会保障費の増大など日本経済全体の課題でもあります。
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引きこもりから抜け出すための支援制度
「引きこもりの状態をなんとかしたい。でも、どこに相談すればいいかわからない」。そう感じている方は少なくないはずです。
実は、国や自治体にはさまざまな支援制度が用意されています。まずは以下の窓口を知ることから始めてください。
【まず試してほしい相談先】
- ひきこもり地域支援センター(全国80か所以上。電話相談OK)
- 市区町村の自立相談支援機関(生活困窮者自立支援制度)
- 地域若者サポートステーション(15〜49歳対象。全国177か所)
- KHJ全国ひきこもり家族会連合会(家族の悩みを共有)
- よりそいホットライン(0120-279-338、24時間無料対応)
ひきこもり地域支援センター
すべての都道府県と指定都市に設置されている、引きこもり支援の専門窓口です。社会福祉士や精神保健福祉士などの専門スタッフが、本人だけでなく家族からの相談にも対応してくれます。電話相談もできるので、まずは電話してみるだけでも大きな一歩です。
厚生労働省 ひきこもりVOICE STATION(全国の相談窓口一覧)
生活困窮者自立支援制度(2025年4月より居住支援が強化)
生活や仕事に困っている方向けの支援制度ですが、引きこもりの方も対象になります。各市区町村の窓口で生活全般の相談に乗ってもらえ、「就労準備支援事業」を通じて、まずは生活リズムを整えるところからサポートを受けられます。
また、2025年4月の法改正により、住まいの確保が難しい方への「居住支援(居住サポート事業)」が強化されました。親元からの自立に向けた住居に関する相談もしやすくなっています。
地域若者サポートステーション(サポステ)
15〜49歳の就労に困難を抱える方を対象にした、厚生労働省委託の支援機関です。全国に177か所設置されています。コミュニケーション訓練や就労体験、ビジネスマナー講座など、段階的なプログラムが用意されています。
社会復帰への道。焦らなくていい
引きこもりからの社会復帰は、「いきなり就職する」ことがゴールではありません。
まずは家族以外の誰かと話すこと。外に出てみること。それだけで十分な一歩です。
段階的な回復のステップ
支援の現場では、以下のような段階を踏んで社会復帰を目指すことが一般的です。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ステップ1 | 家族や支援者との信頼関係をつくる |
| ステップ2 | 自宅以外の「居場所」に通ってみる |
| ステップ3 | ボランティアや就労体験をしてみる |
| ステップ4 | 短時間のアルバイトや在宅ワークに挑戦 |
| ステップ5 | 自分に合った働き方を見つける |
大切なのは、周囲が「早く社会に出ろ」と急かさないこと。内閣府の調査では、職場での傷つき体験が深刻なトラウマになっている方が非常に多いことがわかっています。いじめ、パワハラ、長時間労働。そうした経験を持つ人に「頑張れ」と言うことは、逆効果になりかねません。
引きこもり経験者の多くが「オンラインやテレワークで働きたい」と回答していることからも、新しい働き方の選択肢を広げることが、社会復帰の鍵になるはずです。
まとめ
この記事のポイントを整理します。
- 日本の引きこもりは推計146万人。約50人に1人にあたる
- 引きこもりの理由は「退職」「人間関係」「コロナ禍」が上位
- 男女比はほぼ半々。女性は「家事手伝い」「専業主婦」として見えにくいだけ
- 韓国やイタリアでも同様の問題が起きており、家族主義の強い国に多い傾向がある
- 8050問題は深刻化しており、親がいつまでも支え続けられるわけではない
- 公的な相談窓口は無料で利用でき、電話だけでも相談が可能
8050問題が示すように、引きこもりの長期化は本人だけの問題では済みません。親の高齢化とともに、経済的にも身体的にも限界が来る日は確実にやってきます。
だからこそ、動けるうちに相談窓口につながることが重要です。この記事で紹介した支援制度は、すべて無料で利用できます。まずは電話一本から始めてみてください。
よくある質問(FAQ)
引きこもりとニートは何が違いますか?
ニートは「15〜34歳で仕事をしておらず、学校にも通っていない人」(※日本での一般的な定義)を指し、外出の有無は問いません。一方、引きこもりは年齢に関係なく「社会的な交流がなく、6か月以上自宅にとどまっている状態」を指します。ニートの中に引きこもりの人がいる場合もありますが、定義は別物です。
引きこもりの家族はどう接すればいいですか?
最も大切なのは、本人を否定しないことです。「早く働け」という言葉は逆効果になりやすく、さらに引きこもりを長期化させる要因になります。まずは家族自身が専門の相談窓口に連絡し、適切な接し方のアドバイスを受けることをおすすめします。
引きこもりは病気ですか?
引きこもりそのものは病気ではなく、さまざまな要因が重なって生じる「状態」です。ただし、うつ病や不安障害、発達障害などの精神疾患が背景にあるケースも少なくありません。必要に応じて医療機関を受診することも重要な選択肢です。
引きこもりの期間が長くても社会復帰できますか?
可能です。10年以上引きこもりだった方が社会復帰した例はたくさんあります。ただし、期間が長いほど段階的なステップが必要になります。いきなり就職を目指すのではなく、まずは居場所づくりやコミュニケーションの練習から始めることが効果的です。
女性の引きこもりは少ないのでしょうか?
いいえ、最新の調査では男女比はほぼ半々です。女性の場合は「家事手伝い」や「専業主婦」として見られやすく、周囲から引きこもりとして認識されにくいという背景があります。
引きこもりの相談は無料でできますか?
はい。ひきこもり地域支援センターや生活困窮者自立支援窓口など、公的な相談窓口は基本的にすべて無料で利用できます。電話相談にも対応しているので、外出が難しい場合でも相談が可能です。
参考・出典
- 内閣府「こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)」
- 厚生労働省「ひきこもり支援推進事業」
- 厚生労働省「生活困窮者自立支援制度について」



